しずんで、沈んで、静む。

外が暗くなったら、

アルコール9%の缶チューハイを呑む。

体が強くないから、

何度も吐き戻しかけながら、

30分から1時間をかけて呑む。

 

美味しくはない。

気持ち悪い。

 

でも仕方ない、眠るのに必要だから飲む。

飲み終わったら眠り薬を飲んで、

効き始めるまでの時間稼ぎにタバコを1本吸う。

 

缶チューハイで、意識はとろんとしてくる。

頭が働かなくなって、

なんにも考えなくて済むこの時間が、

一日のなかで1番楽で穏やかだ。

お酒との相乗効果で薬もすぐに効き始めて、

意識が沈んで、真っ暗になって、

頭の中がやっと静かになる。

そうして眠っている間だけ、

私は許される気がする。

 

何年か前(本当は何年の何月何日かまでおぼえているけど、言わないでおこう)、

わたしは目の前でとある犯罪を見た。

罪状で言うと、強制わいせつ罪。

被害者からは警察に訴えるから、

証人になってほしいと言われた。

でも、断った。

加害者の家族が、私にとっての

「命の恩人」だったからだ。

加害者がどうなっても

自分のした事だ、自業自得だけれど、

その家族が「犯罪者の家族」になることは

耐えられなかった。

 

強制わいせつ罪には執行猶予付きがない。

数年、あるいは数十年を、

刑務所の中で過ごす事になる。

そうなったら家族は収入を断たれ、

困窮することになる。

何より、恩人たちの大好きな「お父さん」を、奪うことは、出来なかった。

 

被害者の家族は怒り心頭で、

何度か加害者と話をしたらしい。

警察にも何度も訴えたのだろう。

1年経ってから被害届が受理され、

私は重要参考人として警察に赴いた。

加害者がどうなるか、

すべて私の証言で決まることになるような感じだった。

幸か不幸か、1年も経つと記憶も曖昧で、

大体の事柄については「覚えていません」と答えるしか無かった。

結果、加害者は不起訴になった。

 

とりあえず良かった、

と胸をなでおろしたけれど‥‥‥‥でも、

本当はどうしたら良かったのか、

いまもわからない。

「助けて」と手を伸ばした女の子を、

私は見捨てたのだ。

それからまたしばらく経って、

今度は別の女の子がまた被害にあったと聞いた。

その件については警察への相談のみで終わったらしい。

 

私が一番最初に加害者をかばったから、

だから、また一人の女の子を傷つけてしまった。

助けてあげられなかった。

 

後、私は泥酔した男と女にレイプされることになる。

私も彼らほどではなかったが酔っていて、

動けなかった。

2人とも仲のいい友人であったから、

強く拒めなかった。

 

あの、体の中に異物が入ってくる違和感、

恋人でもないのに全員が裸である違和感、

‥‥‥‥2人とも、既婚者だった。年上だった。

酔っていて覚えてないんだ、

ごめんね、で、話は終わった。

彼らにとってはその程度の事柄でおしまいなのだ。

 

ひとりになってから泣いたけど、

私は怒ることが出来なかった。

いつもの通り仕事に行った。

 

2人の配偶者もまた仲良くしている人で、

私が動いたら、その人たちを傷つける。

さらに不幸な人を増やしてしまう。

何より、当然の報いだとも、思った。

そんな私が被害者になる権利なんて、ない。

 

ただ淡々とすごしたけれど、

頭の片隅にはいつもこのことがあって、

何かいいことがあっても、

私が見捨てた女の子たちが

「私を見捨てたくせに」って、囁いた。

その度、あぁ、幸せになんてなってはいけない。

恋人を作ったり、

結婚して幸せになる権利なんてないって思った。

 

それでもわたしは後悔してないのだ。

こうして、「命の恩人」たちを守れたのなら、

恩を返せたのならそれでいいと、

思ってしまうのだ。

 

何気ない日常のなか、いつも、

多重露光のようにして

私が見捨てたときの景色が、

レイプされた時の景色が、見える。

 

だから、お酒と薬を飲んで、強制的に意識を止めて、眠る。

もう二度と目覚めませんように。

眠りの底に沈んでいられますようにと、ねがいながら。